海南友子監督の『ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~』を鑑賞し、この作品の海南友子監督とグリーンピースジャパンの関根彩子さんをお招きしてトークセッションを行いました。
▼主催 GRID CINEMA/ユニバーサルリサーチラボ(URL)
10月4日(日)、zoomにてオンラインイベント【海南友子監督のトークあり】 『ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~』 / オンライン上映&ダイアログ」が開催されました。
「気候変動で、私たちが一体何を失うのか?」
今回のテーマは、オンラインで一緒に映画を鑑賞し、わたしたちの地球、そして未来について語り合い、一緒に考えていく仲間とつながること。
本レポートでは、ゲストスピーカーの海南友子監督とグリーンピースジャパンの関根彩子さん、モデレーターでURL(ユニバーサルリサーチラボ)代表 / GRiD CINEMAオーガナイザーの浦野真理さんのトークセッションをはじめとする、イベントの一部始終をお届けします。
▼タイムスケジュール
9:30 イントロダクション&チェックイン
9:40 『ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~』オンライン上映
休憩
11:35 トークセッション
12:10 グループダイアログ(ブレイクアウトセッション)
12:25 エンディング&チェックアウト
12:30 終了
※終了後13:00まではZOOM会場は開放。
9:30 イントロダクション&チェックイン
[映画の紹介]
『ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~』
舞台は、南太平洋のツバル、イタリアのベニス、アラスカのシシマレフ島。気候も文化も異なる島で生きる人々の普通の"暮らし"に焦点を当て3年がかりで撮影。絆を育む祭りや、長年受け継がれる伝統工芸、水辺の暮らし。そのすべてが気候変動で失われゆくものです。
海南監督は「気候変動で、私たちが一体何を失うのか?を"感じる"作品を作りたい」と、ナレーションやBGMを排して、波や風の音、島の人々の美しい歌声や子供の笑顔と旅する作品に仕上げました。撮影には詩的な映像で知られる南幸男さんを迎え、現場で1カットずつ話し合いながら作った渾身作。
エグゼクティブプロデューサーとして、20年来の友人で恩師でもある是枝裕和監督が、企画に参加しています。
上映前に、海南監督より「お願い」が。
「作品は、劇場(映画館)で鑑賞する前提で製作したため、できるだけ映画館に視聴環境を近づけて視聴してください」とのことでした。3カ国を訪れ、ドキュメンタリーの撮影に長い年月をかけた監督だからこそのこだわりと、心遣いが垣間みえます。参加者のみなさんが、お部屋を暗くして音量を上げる設定をしたところで、上映がスタート。
9:40 『ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~』オンライン上映
[参加者]「ある意味で恐怖映画でした。遠い国の他人事にように感じていましたが、改めて目に突きつけられると、悲しくなりました。美しい自然や町並みがとても印象的ですが、自分たちの故郷を捨てるかどうかの決断を迫られる人々がいることを改めて映像で観て、心が苦しくなりました。アイデンティティや文化、先祖のお墓など、失われるものが多いこと、そうしたものを踏まえて移住を決めたシシマレフの人々の思いはどんなものであるかと想像もできません。
[感想] 渡邊
ツバル、ベネチア、シシマレフと、国の気候や住んでいる町の文明発展度もちがうけれど、そこには確かに温暖化が忍び寄っていて。住んでいても危機感を感じない人もいる。地域の問題でのあって、”水の惑星”地球の問題である気候変動をひとりひとりがどう向き合っていくかについて色んな視点を盛り込んで考えたいと思いました。
11:35 トークセッション
1時間46分の上映終了後、10分間の休憩を挟み、ゲストスピーカーによるトークセッションが始まりました。
▼トークゲスト
海南友子監督
1971年 、東京都生まれ。日本女子大学在籍中に、是枝裕和のテレビドキュメンタリーに出演したことがきっかけで映像の世界へ。卒業後、NHKに入局。報道ディレクターとしてNHKスペシャルなどで環境問題の番組を制作。2000年に独立。
関根彩子さん
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
1991年よりグリーンピース・ジャパンに参加。オゾン層保護・気候変動問題に関わった後、有害物質による海や陸、生活圏の汚染問題を担当し、2004年に退職。Antarctic and Southern Ocean Coalition(ASOC)、PEW Environment GroupなどのNGOで、 南極の海洋生態系保護や、違法漁業のプロジェクトに関わる。2011年、東京電力福島第一原発事故を機にグリーンピースに復帰。生態系に根ざした食と農業を目指すプロジェクトを担当し、2019年から気候変動・エネルギーの活動に参加。
浦野真理(うらのまこと)さん
URL(ユニバーサルリサーチラボ)代表 / GRiD CINEMAオーガナイザー
AI開発ベンチャー企業で研究職に従事しつつ、その傍ら2016年にURL(ユニバーサルリサーチラボ)を立ち上げる。環境問題、ポスト資本主義、北欧社会などをテーマとしたワークショップ、ドキュメンタリー自主上映会「URLシネマ」等を主催。本を読まずに参加できる読書会Bookedの運営メンバーも務めている。
ゲストスピーカーは本作品の監督である海南友子さん、グリーンピースジャパンの関根彩子さん。URL代表の浦野真理さんがモデレーターを務め、(関根さんに向けて)この映画を観て何を感じたのか、観た直後の新鮮な感想に加え、お二人には環境問題に関心をもったきっかけ、ご自身の胸にある想いなどをお話しいただきました。
以下、トークセッションのFAQです。
Q&A
浦野さん : 関根さん、映画を観た感想を教えてくださいますか?
関根さん : 美しい、ですね。風土も、住んでる方も。海を生活圏として生きている人でさえ目の前に迫っている災害を想像する余地がないほど、美しい環境がそこにはあるということが伝わりました。
浦野さん : 海南監督は、現地どのくらい滞在されたんですか?
海南監督: 2005年から通い始めました。パタゴニアに行って、氷河トレッキングのロケで足元の氷河が崩れるのを目の当たりにして恐怖を感じたんです。92年の気球環境サミットで学生として参加したので氷河が溶け出していることは知ってはいましたが、実際に土地に足を運んだことで肌で実感しました。今日上映されたドキュメンタリー映画の撮影には8年くらいかかりました。
浦野さん : 映画の撮影が15年前くらいということでしたが。15年前の環境問題に対しての社会の関心、と現在とでの変化はあったりしますか?
関根さん : ツバルでいうと、92年にツバルの首相が来日し、温暖化と島の存続の危機先進国を回って訴えました。GPJではスタッフがアテンドしたのですが、政府の対応のひどさに憤りを感じました。しかし、メディアでも気候変動について報じられるようになったり、SNSで若者が声をあげたりするなど、民衆の関心は高まっていると感じます。
海南監督:ベネチアに仕事でいって、10分のムービーを作成しました。まちが水没するのは冬場の高潮の時期でしたが、近年はシーズンが関係なくなり、一年中の問題になってしまったそうです。すでに環境問題がいたるところに見受けられる状況から改善するのが難しいと感じるからこそ、10年単位で活動をしていくことの重要性を非常に強く感じます。
浦野さん:作中で鳴り響いた高潮警報のサイレン、あれ非常に不気味でしたね。
海南監督:あのサイレンは、地震の速報みたいな位置付けでしょうか。ベルがどのくらいの時間鳴り続けるかで、来たる高潮の高さが分かるんです。住民の方は高潮アプリを入れて、波の高さなどをチェックしています。「世界で一番きれいな書店」も、床が浸水してしまっています。「綺麗だから」と写真を取りに観光しに行くだけでなく、こういった現実問題にどう向き合っていくかを考えないと、美しいまちも水に沈んでしまう時が来てしまうのかもしれません。
浦野さん:ツバル、ベネチア、シシマレフの3つの島を選んだ訳を教えていただけますか?
海南監督:パタゴニアで氷河が足元から崩れるのを経験してからこの映画を撮ろうと決めたので、最初は環境問題の”恐怖感”を伝えたかったんです。
しかし、訪れたツバルは想像以上に美しくて。風景も、人も、本当に美しい。泣き叫ぶ人を撮りに行ったのですが、そうではないということを見ました。島が沈むということは、土地が沈む恐ろしさだけでなく、そこに住む温かな美しい人々、文化も沈むということです。ツバルだけでなく、3つの島を撮ったのは「暑くて遠い南の島」ではなく、いろんな特色がある島に危機が迫っているということを伝えたかったからです。例えば、北海道で上映会をすれば島だからという理由で共感を呼ぶし、
東京や大阪で上映会をすれば、ベネチアの文化的都市の生活に共感を呼びます。
「暑い島、寒い島、華やかな島」のそれぞれを映像に収めることで、環境問題と背中合わせだと言うことを伝えたかったのです。
浦野さん:個人的に、豚の命を頂くシーンや、アザラシの解体のシーンが結構堪えました。関根さんは動物の解体シーンについてどう思いましたか?
関根さん:わたしも正直、きつかったです。
海南監督:観るのがきつい方もいるとは思います。(苦笑)ツバルで少年たちが殺した豚は、朝晩少年たちがお世話をした豚でした。祭りのときに、年中大切に育てていた豚を、青年たちが自ら捌く。それは地域における「役目」があることの表れです。育てた生き物を自分たちで殺めて、命を頂くという伝統があることを伝えたかったのです。
シシマレフのカットでは、アザラシの肉が食用になっていましたね。実は、アザラシが食べる海藻のミネラルも含んでいるんです。骨も身もあますことなく、何もない雄大な大地の貴重な食料を大事に大事に食べている生活を捉えました。
浦野さん:いくつかの海南監督へのインタビューのなかで、2010年には「3つの島に共通していたのは、逃げ惑う人が1人もいないということでしたね。みんな、被害に悩んでいるというより、状況を受け入れざるを得ないと思っていて、やり過ごしている。そのことがいちばん怖かったですね」とおっしゃってましたよね。
海南監督:皮肉なのが、国のいちばん端の島から被害を被っているということです。アメリカでいうと、都市部から離れて海に面しているアラスカ州からですね。
ニューヨークのような大きな都市で起こっていたら、「国の存亡に関わるから」と多くの人が行動を起こすだろうけれど、小さな端っこの島だからこそ、現実社会が問題と対峙するスピードの遅さによって、改善が大変遅れていると感じます。
浦野さん:関根さんにむけて/現地の彼らに現実を変えられないのが現実で。先進国の加害者性と向き合うのは、関心を高めないとと思います。日本での関心はどうでしょうか?
関根さん:若い人たちの関心の高まりは増えている思います。逆に、バブル期前後に若かった人の関心は、世論調査にも表れているように、低い傾向にあります。
浦野さん:今はSNSで英語圏での情報も得られますしね。
浦野さん:海南監督は、是枝さんとも交流があるそうですね。ドキュメンタリーの映画にキャリアをシフトしたわけを教えて頂けますか?
海南監督:テレビ、映画のできることは各々別にあります。1人ひとりの小さな絆が、ドキュメンタリーを観てもらうことによってつながってゆくことに感動を覚えます。
社会や地域に対する自分なりのアクションの根底は繋がっています。今度は、福島とチェルノブイリを舞台に映画を撮影する準備をしています。zoomなどで、色んな方と環境問題について考えながら、絆を深めていく機会にもなったらと思います。
浦野さん:作り手と観客のつながりや、ツバルの少年たちと自分たちの姿のつながり。日本の日常の中で、遠い国に暮らす少年と自分の状況を重ねるのは難しくもあります。しかしそれの手助けになるのが、ドキュメンタリーの持つ力なのかなと感じました。
関根さん:人がめったに足を踏み入れない地域を訪れたり、大規模な組織に話を繋げていくことは難しいと感じますが、それを可能にしていくのがドキュメンタリーの力なのかなと思います。
12:10 グループダイアログ(ブレイクアウトセッション)
瀬沢ルームでは、台湾にゆかりのある方と、コロナと環境問題についてのお話が、渡邊ルームでは、中高生に気候問題の授業をしている方と、データでみる日本の豊かさや大きな組織を動かすための仕組みについての会話が繰り広げられました。
そのほかのブレイクアウトルームでも、学生から環境問題の第一線で活躍されている方まで、幅広い層の参加者さんが集まり、とても会話が弾んでいる様子でした!
12:25 エンディング&チェックアウト
イベントのエンディングでは、〈Greenpeace International〉が2020年に製作したばかりの、北極の氷についての動画を鑑賞しました。海外で撮影された英語の動画を、〈グリーンピース・ジャパン〉石川せりさんが日本語翻訳して、チャット欄で同時通訳してくださいました。
〈動画〉
こんにちは。北極へようこそ!
私はラウラです。グリーンピースでオーシャンキャンペーナーをしています。
私はいま、アークティック・サンライズ号に乗っていて、
北緯80度くらいにいて、氷に囲まれた海上にいます。
このあたりで調査をしている船はごくわずか。
最小になった北極の氷の現場をこの目で確認し、記録するために来ています。
残念なことに、今年もまた最小の記録となっています。
北極の氷は確実に小さくなり、消えていっています。
これは気候危機の真っ只中に私たちが生きているというアラームです。
見てお分かりのように、北極はとても美しく、静寂な場所です。
信じられないくらい穏やかです。
私が生きている間にどのくらいの氷が失われてしまうのか考えると、新しい北極の現実に直面しているのだと思い知ります。
北極の氷が溶けるにつれて、より多くの熱が海に吸収されます。
その結果、私たちはより甚大な気候危機の影響にさらされてしまいます
氷の世界には、ユニークな動物たちであふれています
この動物たちもまた、危機にさらわれ、保護がいますぐにでも必要です。
だから、私たちは国連の生物多様性サミットにあつまる世界中のリーダーたちに、海洋保護区のネットワークをつくって海を守るよう訴えています。
海洋保護区ができれば、人間による活動は制限されます。
これが実現されれば、動物たちは回復し、海で起きている急激な環境の変化に適応できるようになります。
この北極探査遠征で行いたいことの1つは、氷の下や表面で生きる命やその多様性についての調査です。
シロクマは象徴的な動物ですが、肉眼では見えない命もあります。
複数のサンプリング手法を使って、その生命について知ることが可能です。
そして、今後どのように保護していけるのかについて理解を深めることができます。
このようにして北極に来て、調査を実施できることはとても光栄です。
それを可能にしてくださっているのは、ご寄付で支援してくださる皆さんのおかげです。
いつものご支援、本当にありがとうございます。
一緒に来れてよかったです。
こんにちは。マイラです。イギリス出身で、気候アクティビストとして活動しています。
この秋、グリーンピースと一緒に北極に来れたこと、とても嬉しく思っています。
北極という特別なところにいるというだけでなく、最小の海氷を目撃し、
地球に暮らす生き物や私たちにとっての時間が限られていることを、改めて感じました。
私は、海を守ることの重要性を知ることはとても重要だと思います。
人間として、私たちが起こした問題の責任を取り、海に生きる全ての生き物を守り続けていきたいです。
グリーンピース・ジャパンから署名のお願い
海は、大気の熱を吸収したりなど、気候変動を安定化する役割を担っています。その海が健康でなければ、そういった効果も見込めません。そこで、「海を守っていくために海の30%を誰も手をつけられない海洋保護区にしましょう」という署名を集めています。
お名前とメールアドレスでご署名できます。一緒にみんなの海を、みんなの未来を守っていきましょう。
↓署名に協力される方は、こちらGREENPEACEの公式サイトよりお願いいたします!↓
https://act.gp/3lfg4ft
サポーターでもある浦野さんからGPJについて
浦野さん:私もサポーターを努めさせていただいているのですが、〈グリーンピース・ジャパン〉は完全にNGOですよね。なぜNGOなのでしょうか?
関根さん:企業や政府など、大きな組織となんのしがらみもなく、独立した組織であることが不可欠であるからです。そうすることで、署名など市民、国民のアクションがそのまま直接パワーになります。みなさん1人ひとりのアクションが大きな力になるのです。
署名という小さなステップを踏むことから、システマティックな問題を変えていきましょう!
さいごに
浦野さんが、10年前のあるインタビューから、海南監督の言葉を紹介しました。
”3つの島は、世界中でこれから起こる
最先端の出来事で満ちていた。
想像力をどう働かせられるか?
が、私たちの未来を決めることになる”
映画監督 海南友子
12:30 イベント終了
日本から離れた世界の各所で起こる未曾有の気候変動に対して、どれだけの想像力を持って対処していけるだろうか、という意味を込められたこの言葉。台風や大雨、記録的な夏の猛暑など、すでに自然災害と隣合わせになってしまっている日本列島に住む私たちが身近な災害を防いでいくためには、個人単位で身近なアプローチをかけていく必要があります。
作中の映画の少年が兄弟のことを思うように、3カ国それぞれで「もし自分がそこに暮らしていたなら」と、のめり込むようにドキュメンタリーを鑑賞し、監督よりその場で制作秘話について聞けた貴重な上映会でした。
レポーター:GRID Cinema crew 都留文科大学4年 渡邊麗桜奈
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