URLシネマ vol.1
ドキュメンタリー映画『幸せの経済学』は、鮮明に反グローバル化を打ち出した2010年の作品です。
▶グローバル化の影響で、私たちは何を失っているのか? ▶グローバル化から脱する「希望の道」とは?
68分の映像に力強いメッセージを詰め込んだ作品。これまで世界各国で上映されローカリゼーションのうねりを促進した作品と言われているそうです。 東京都内でこの映画『幸せの経済学』の上映会を開催しました。上映後の対話の時間には、地球規模の話から個人の内面の話まで、幅広い対話が繰り広げられました。
作品は二部構成になっています。
前半では、「グローバル化の不都合な真実」として世界各地で引き起こされている惨状が描かれます。
大量消費文化の影響による人々の不安や孤独、深刻な環境破壊、そして紛争まで。各分野の専門家が次から次へと批判を繰り出します。 概ね、グローバル企業が犯人。 途上国という新しい市場で、消費を喚起するためのグローバル企業による広告は、現地の人々に不安や嫉妬、対立を生んでいます。また先進国でも様々な年代層に孤独をもたらしています。そういった人々の姿をこの作品は次々に映していきます。 ヘレナ監督がラダックである青年に何が欲しいかを尋ねたところ「欲しいものはここにすべてあるよ」と答えた彼が、数年後「ラダックは遅れている」「ここにはあれがない」「これが必要だ」と必死に訴えてきたというエピソードは象徴的でした。
世界中が欧米に憧れ、真似をする必要は本当にあるのだろうか?幸せという観点では、誤った方向性ではないか?
毎年のアメリカの世論調査で「非常に幸福である」と答えた比率は1956年に最高を記録し、その後下がり続けている。その間に所得は3倍に増えているにもかかわらず。
また、「イギリスで収穫したりんごが、南アフリカで磨かれて、再びイギリスに輸入されている」などの不条理なエピソードも語られる。
(グローバル化の不都合な真実 / 映画『幸せの経済学』より)
後半は、世界の各地でうねりを起こしている「ローカリゼーション」の実例が描かれます。(日本も出てきます。)
・ローカルフード(地元の農産物)
・エネルギーの地産地消
・地域経済圏への参加
例えば、輸入品よりも地域の農産物を優先して買うこと。それは生産者と消費者が直接やりとりすることでもあります。自然と会話が起こり、心の交流が生まれる。そして地域の人々は互いに顔なじみとなってゆきます。また、自分の地域での経済圏(映画では「人間的な規模の経済」と呼んでいます)では、環境破壊や非情な労働などは避けられます。
経済学的に、次のようなデータも紹介されます。
地元の書店と大手書店チェーンで100ドルを使った時の調査で、地元の書店では45ドルが利益として残りチェーン店では13ドルが残った。つまり地元の書店の所得効果は3倍で,地方自治体の税収額も3倍だった。
結論は「より小さな規模の経済では、より暮らしの質が高い」ということでした。
監督は、スウェーデン生まれのヘレナ・ノーバーグ=ホッジさん。1991年に執筆した著書『懐かしい未来 ラダックから学ぶ』は50の言語に翻訳され、彼女はローカリゼーション運動のパイオニアと言われています。
懐かしい未来 ラダックから学ぶ (懐かしい未来の本) 言語学者だったヘレナさんは、1975年にチベットの秘境ラダック地域に入植。ラダックの美しい風土、誰もが幸せに生きている独自の文化、そして自給自足で回る地域経済に魅了されます。当初はそのすばらしさを探求するために毎年をラダックで過ごし始めるのですが、年月とともに目の当たりにしたのは「荒廃するラダック」でした。
上映会では、鑑賞後にたっぷりと時間をとって作品の感想や幸せについて、カジュアルに、フランクに、時には真剣に対話を繰り広げました。 【参加者の感想】(一部) ・先進国の、そして都市住民の私たちは「罪悪感」を持つべきなの? ・大量消費社会で、心が孤独に向かうのは身に覚えがある。 ・この作品のように「グローバル化=悪」には違和感があった。 ・幸せとは、人とつながりあって心が充足することではないか。 ・小さなことに感謝するマインドが、幸せにつながると思った。
【終わりに】 作品の冒頭、このようなナレーションから始まります。 環境危機 そして経済危機 さらにもう1つの危機..... それは「人間の心の危機」である そして、後半でヘレナ監督は私たちに向かってこのようにメッセージを送ります。 ● 途上国の人達に、消費をするな、車をもつなと指図する権利はありません ● ただ、先進国で起きていることを伝える必要があります。社会問題、環境問題を抱えていること、持続可能な解決策を模索している姿を見せるのです いかがでしょうか。僕はこの作品から宿題をもらった気分になりました。
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